フェリーニの『インテルビスタ』を観たことがある人なら分かり得るだろうが、フェリーニがフランツ・カフカの「アメリカ」を映画化するので、主人公のカール・ロスマン役、豊満な歌手、ブルネルダ役を始め、エキストラ等のオーディションを行う、というシーンが有る。そこから、フェリーニという人物がチネ・チッタという虚構の国家を通して、新しい模造国家としてのアメリカにどういった思いを持っていたのかは想定範囲内だろう。カフカの「アメリカ」とは1913年から書き始められ、未完に終わった長編小説だ。これは生涯でアメリカに行くことが「出来なかった」カフカの、妄想のアメリカ像な訳で、僕自身が時々、アメリカという膨大な土地に想いを馳せる際に想像力を超えてくる限界的な臨界線を敷くことになるのも道理かもしれない。
そういう意味で、僕の中ではウィルコというバンドは常に「"あるようで、ない"アメリカの象徴的バンド」だった。オルタナ・カントリー文脈で、語るには彼等はもはや野暮になるのは当たり前なのを踏まえた上で、7年振りに彼等のライヴを観て、逆に個人的に、「確かに、在る、未完じゃないアメリカ」を感じた。
そもそも、ミネアポリス等をベースとした1980年代半ばのパンク/ハードコア・シーンから、所謂「オルタナ・カントリー」と後に呼ばれるようなサウンドは生まれた訳だが、その中で、イリノイ州ベルヴィルの田舎町で幼馴染として育った、ジェフ・トゥイーディとフェイ・ファーラーが居た。88年にアンクル・テュペロを結成するにあたり、それまでのありきたりなパンク・サウンドにはないエッセンスを混ぜ込もうとした際に彼らが選んだのは、当時点で決してクールではない「カントリー」だった。後進という更新。アンクル・テュペロからサン・ヴォルト、ウィルコに分派した経緯は或る程度、周知だろうから、割愛するが、ウィルコが90年代に発表した作品群は既に、オルタナ・カントリー枠を遥かに超えたモダン・ポップネスと「仮構的なアメリカ」を可視化するような作品ばかりだった。
02年のジム・オルークを招いての『Yankee Hotel Foxtrot』以降の快進撃と高評価、また、ライヴでの高度なパフォーマンスは言うまでもないが、今回、イベントを除いては初の単独公演となる4月22日の大阪の彼等のライヴ場所、BIG CATの収容人数800人程は、ほぼフルハウスで、何より外国の方(特に、US)の比率の高さ、そして、老若男女で言うと、少し御年を召されたロック通の方が多かったのはとても健康的な客層で嬉しくなった。
沢山並ぶ楽器・アンプ・機材群。アンプの上にセルフ・タイトルの新作で御馴染みのラクダの置物がある。バス・ドラムにもラクダ。開演の19時を5分ほど過ぎたところで客電が落ち、すごい歓声の中でメンバー6人が登場した。一曲目の「Wilco (The Song)」から芳醇な演奏を見せてくれ、オーディエンスの反応もとても良い。僕は録音エリア(バンド側が自由録音出来る許可を出しているので)の近くで観ていたのだが、録音機器に懸命に対峙する方、彼等のバンド・アンサンブルに陶然としている諸氏と、本当に彼等の来日を持っていたという熱量が十二分に伝わってくるもので、中盤まではMCは少なめに只管、演奏を続けたが、途中からはジェフは「アリガト」とか発し、フランクな感じになっていき、場もそれに呼応するように柔らかく解れていった。マイケル・ヨルゲルセン、パット・サンスンがキーボードをメインに操りながら、それぞれプロ・トゥールのマニュピレーションやサイド・ギターを操り、ネルス・クラインも曲毎にギターを換え、ステージ立ち位置脇には常時10本近くのギターがストックされており、多い時でギターが3人となっても、それぞれが絶妙のバランスで演奏していた。無論、グレン・コッチェのドラムも素晴らしかった。ライヴ自体は2時間半近くに及んだが、決して間延びしない新旧、強弱要り交えたセットリストで、ふと名盤『Summer Teeth』からの「Shot In The Arm」が挟まれたりしながら、『The Ghost Is Born』からの佳曲「Handshake Drugs」も非常に美しく、思わず個人的に涙腺が緩んだりしたが、やはり反応が良いのは、02年以降の作品群で、『Yankee Hotel Foxtrot』からの曲は相応のアレンジと音響工作を入れていたのも面白かった。そして、「皆、これは歌えるよね?」とジェフの声を受けて、後半に演奏された「Jesus,Etc.」はクライマックスと言っても過言ではないくらい、皆、幸せそうにシンガロングしていた光景は、美しさがあった。
全体を通して、人肌感溢れ、爽快感のあるライヴで、各曲の細部に触れるより、今の彼等が奏でる音楽はUSインディーシーンにおける良心なのは間違いない、と確信した充実したパフォーマンスだった。技巧主義にも走らず、決して冗長なインプロや閉じたセッションにも走らず、届けるべきものをしっかり届けるプロフェッショナリズムに胸打たれた一夜で、個人的に、ライヴを観た後に、これだけ軽やかな気分になったのは久々だったという事は、今のウィルコが如何に良いモードにあるか、という証左に他ならないというのを感じたと置換出来るだろうか。過剰な批判や不健康な磁場を寄せ付けない、良いライヴだった。
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(編集部)
