LCDサウンドシステム

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LCD SOUNDSYSTEM

最後のレコードだってことで
寂しく感じる必要なんかないと思ってる(笑)


すぐれたポップ・ミュージックの作品というのは、それを作った/演奏した/歌った人間の(抽象的な意味での)ドキュメンタリーとなりえる。それは、とりもなおさず、その人間が...そしてぼくらが生きている、この世界のドキュメンタリーということでもある。LCDサウンドシステムの、あまりに見事なサード・ アルバム『This Is Hapenning』を聴いていると、そんなことがあらためて頭に浮かんでしまった。素晴らしい音楽を世に出しつづけてきたLCDサウンドシステムことジェームズ・マーフィー(DFAの首謀者のひとりでもある)だが、(今のところ)これが最後のアルバムになる予定だという。でも、内容は極めてポジティヴ...。彼の気分に迫るべく、電話インタヴューを敢行した。

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ニュー・アルバム『This Is Happening』聴きました。素晴らしいですね。ご自分では、この作品についてどう感じていますか?

ジェームス・マーフィー(以下J):うーん、今コメントするのはむつかしいね(笑)。終わったばかりだし。もっと時間を置いた方が、自分としてどんな作品だったかってわかりやすいものなんだけど...。でも、すごくエキサイティングで楽しい作品ができたとは思ってるよ。

エレクトロニクスが駆使されているとは思うのですが、全体的に、とても暖かい感触があります。こんな意見について、どう思いますか?

J:たしかに、これまで自分であまり使わないでいた要素を試した部分はあった。

『This Is Happening』というアルバム・タイトルからは、ハプニング・アート(偶然性を重視したアート)的なノリを感じます。実際、制作過程もそんな感じだったのでしょうか?

J:これはイディオム的な表現なんだよ。だから説明するのはむつかしいけど...。「絶対そういうことが起こるんだ」って自分たちに言い聞かせたり、あるいは「そういうことが本当に起こってるよ」って驚いたときにぼくらは使ってるかな。自分たちでレコードを作っていたときに、「本当に俺たちがアルバム作っちゃってるぜ!」みたいな意味でも、よく使ってたんだ。驚いたことといえば、クレイジーな巨大なお屋敷みたいなところでレコーディングしたり(笑)。

前作『Sound Of Silver』を聴いたとき、クラフトワーク、ディーヴォ、デヴィッド・ボウイ、そして70年代のブライアン・イーノといった人たちの名前が頭に浮かびました。その印象は、今回の『This Is Happening』でも継承されています。こんな感想について、どう思いますか?

J:みんなすごく好きなアーティストだから、うれしいね。

具体的にいって、「All I Want」は、ギターのトーンやメロディといい、かなり70年代のイーノ寄りではありませんか?

J:面白いね! ボウイとイーノのところでギターを弾いていた、カルロス・アロマーがすごく好きだったんだよ。彼は僕のすごく好きなギタリスト。だけど、この曲の僕のもともとのイメージは、もっと何て言うか...ジョン・ケイルみたいな感じだったんだ。それがレコーディングが進んでいくうちに、こういう形になっていったんだけど。

ああ、なるほど! ジョン・ケイルも一時イーノとからんでましたが(笑)「Pow Pow」とかは(これまた70年代にイーノがプロデュースしていたバンドですが)トーキング・ヘッズっぽいような...。

J:そうだね! 僕はディヴィッド・バーンのギター・プレイもすごく好きなんだよ。彼はギター・プレイヤーとして、相当過小評価されてると思う。シンガーとかソングライターって以上に、彼は僕にとってお気に入りのギタリストなんだ。

とくに今挙げた「Pow Pow」とか、「Home」に顕著なんですが、アルバム全体から、なんか、つきぬけたポジティヴなヴァイブレーションを感じました。そんな感想について、どう思いますか?

J:別に最後のレコードだってことで、寂しく感じる必要なんかないと思ってるからね(笑)。すごく今でも楽しいし、このバンドにいられることはハッピーだし、メンバー全員とも仲がいい。そういう、すごく楽しい時にやめることも悪いことじゃないさ。

感傷的な気持ちっていうのは、制作中も一切なかった?

J:レコーディングの最後のほうまで、これがラスト・アルバムになるとは僕も思ってなかったんだよ。最後の...数ヶ月で、ふっとそう思った。

ふっとそう思ったきっかけが何かあったんですか?

J:特にないよ。自分でもどうしてかはわからない。そういうのは直観で決めることで、別にいい悪いでもないし。

以前のインタヴューで、あなたは、こんなことをおっしゃっていました。「本もすごくたくさん読むんだよ。音楽と同じくらい、僕の人生に大きな割合を占めているものなんだ。僕は"言葉"や言葉による表現に、憑り付かれているのかもしれない」。今回のアルバムでも、そんな"言葉"の使い方の巧みさが存分に表現されていると思います。音楽活動が一段落したら、あなたは本を書きたいと言ってる、という話を聞きました。それは本当ですか?

J:多分ね。実際にどうなるかはわからないけど、本を書くってのは、僕がやってみたいことのひとつではある。いろんなことをやってみたいって思ってるから。本を1冊書くっていうのは、むつかしいことではあるけどね。本当にやってみたいよ。

言葉の使い方に関してはどうですか? 結構凝った言葉をアルバムの歌詞に練り上げたようなところはありましたか?

J:全然。大体いつも、歌詞は自動的に口を衝いて出てきた言葉を歌うんだよ。心に浮かんできた言葉を書き留めてね。確かに本を読んだり言葉を調べたりするのは大好きだから、元々どこかにそういう言葉が生きてるのはあると思うけど。

たとえば「You Wanted A Hit」って曲がありますが、これは音楽業界に対する辛辣な皮肉になっていたりしませんか?

J:いや、そんな意図はまったくなかったよ! 僕はすごく自分のことをラッキーだと思ってるし、レーベルとの関係もいい感じと言えるんじゃないかな。少なくとも、自分のやりたくないことをやらなきゃいけないようなプレッシャーを受けたりすることは全然ない。好きなようにやれている。それこそ、これで最後にしようかな、ってジャッジに関してもね。あの曲は僕の友人で、僕よりもずっと売れてるミュージシャンへの、ふざけたレターみたいなもの。彼が「このレコードからヒットは生まれるかな?」みたいな話をしていて、なんで僕らは「ヒット」ソングを生み出さないのかって思って、それで書いたんだ(笑)。

それじゃ、今の音楽業界全体に対しては、どういう印象をお持ちですか?

J:ああ、最悪だよ!

(笑)

J:大災害、って言ってもいい感じ。誰もが「金にならない、全然金がない」って話をしてるけど、入ってくると見越してる金の額が大きすぎるんじゃないかって思う。ぼくは35歳まで、ずっと自分で金を払って音楽を作っていた。今ではやっと仕事にできたけどね。まぁ、そういう意味では、別に明日やめたっていいんだよ。音楽で大金を稼ごうってつもりは、最初からない(笑)。

これから先の具体的な予定は?

J:まずは、これから1年半先までツアーがつまってる! レコードを出してツアーに1年半出て...それからいろいろ考えるよ。本を書くってのもやりたいけど、逆に本を読んだり...また料理したりさ。DJしたり、自分の好きな旅行に出たり...。普通の生活を楽しみたいね。

最近あなたの手がけたサントラ(『Greenberg』)もリリースされましたが、その仕事から今回のアルバムに反映された要素とかはありましたか?

J:全然(笑)。完全に違うものだったね。友達に作ったものだし、まぁ、やれてハッピーだったよ。

もっと映画の仕事をやっていきたいと思ったりはしますか?

J:別にそんなこともないね。ただ監督と友達だったからやっただけだし、正直、映画業界なんか、音楽業界よりもひどい状態だよ(笑)。みんな狂ってる。仕事もどんどんなくなってるし、それで結局みんながアグレッシヴになってて。友達と一緒に色々と話しながら楽しんでコラボレーションするって感じじゃなかったら、映画も音楽も、いろいろ大変になってきてるんじゃないかな。

先ほどツアーの話が出ましたが。今年はフジ・ロックに来日してくれますね!

J:うん。すごく楽しみにしてるんだ。初めてのフジだからね。友達はみんなフジがすごいって話をしてたし、場所がすごく美しいって話をしてた。ツアーに出なくてよくなったら、もっと長期にプライヴェートで日本に行ってみたいね。そしてたくさん日本食を食べたい(笑)。


2010年4月
取材、翻訳/中谷ななみ
質問作成、文/伊藤英嗣

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