ザ・フレーミング・リップスによる、ピンク・フロイド『狂気』完全カヴァー集。
ヘンリー・ロリンズ(元ブラック・フラッグ。80年代USオルタナを通過した人には「ロリンズ・バンドの」と言えばわかりやすい?)やピーチーズのみならず、中心人物ウェインの甥っ子っかなんかのバンドであるスターデス・アンド・ホワイト・ドワーフス(星の死と白い小人たち...って、このバンド名が、またピンク・フロイドっぽい:笑)をフィーチャーして、傑作『エンブリオニック』の延長線上にある、ライヴ感あふれる世界を披露している。
現状はデータのみのリリース。日本のiTunesストアでも買えるようになったので、ぼくも買った。CDを待つのもいいけど、「ザ・フレーミング・リップスによる『狂気』完全カヴァー・ライヴを入場料数千円払って見ると考えれば、このデータに1500円払うのも(くりかえし聴けるし)安いもんじゃない? 「The Great Gig In The Sky(虚空のスキャット)」のあのスキャット・パートをピーチーズとかが担当する...みたいな「イベント」っぽいお楽しみもあるし。
本誌76号に掲載したウェインのインタヴューは、本当に『エンブリオニック』ができたて...彼ら自身まだCDRでプレイバックさえ満足にできていない段階でおこなった。彼も、聴き手の感想知りたがっていたんで、「ちょっとピンク・フロイドっぽくないですか?」と言ったら、かなり本気で驚きつつ、おもしろがっていた。ぼくだけじゃなくて、たぶんほかにもそういう感想たくさん聞いて、彼自身『狂気』を聴きなおして...みたいな流れであるような気がする。相変わらず、自由なスタンスというか...(自由といえば、このニュース、最高だった!→
http://www.nme.com/news/the-flaming-lips/49279)。
76号の表紙コピーで使った「まるでシド・バレットがいるピンク・フロイドの作り上げた『ザ・ウォール』のような...」というのは(ウェインじゃなく)インタヴュアーであるぼくの言葉からとったものだった(これ、イレギュラーなパターン...)。そして本作に関しては、もう正真正銘「まるでシド・バレットがいるピンク・フロイドの作り上げた『狂気』のような」と言ってしまっていいだろう。
70年代前半に『狂気』を制作した頃のピンク・フロイドは、音響的な構築力も大きな魅力のひとつだった。しかし、もしシドがそのままバンドにいつづけたら、あそこまで構成主義(笑)的な音楽はできなかっただろう。ザ・フレーミング・リップスも音響的な構築力に長けてはいるものの、これは、まあ「自由な」お遊び企画。とりあえず「データで売る」ことが前提の作品ゆえ予算も少ないだろうし?
とにかく、『エンブリオニック』にもあった、『クラウド・テイスト・メタリック』以前に通じる、いい意味でラフな肌触りが全開となっている。
オリジナル盤ラストにこっそり隠れていたナレーション...「本当は『月の裏側(狂気)』なんて、ないんだよ。全部真っ暗なのさ(誰もが狂ってる)」という極めて重要なメッセージも、ちゃんと入っている。
ピンク・フロイド(に限らず、いろんなバンド)を「神格化」したがる人を除けば、彼らのファンにも、もちろんリップス・ファンにもお薦め。是非聴いてみてください。
(伊藤英嗣)